アフリカ大陸中央部に位置するコンゴ民主共和国(以下コンゴ)の紛争は、周辺数か国を巻き込みながら、第二次世界大戦後に起きている紛争としては、最多である540万人以上の死者を産み出している。
シリア、イラク、アフガニスタン、パレスチナ、ウクライナなどの紛争がテレビや新聞を通じて私たちに届けられる一方、コンゴの紛争は、死者540万人以上という規模であるにもかかわらず、メディアが取り上げることはほとんどない。
日本においては、この紛争の存在すら知らない人がほとんどだろう。もしかしたらコンゴ民主共和国という国自体も、それほど知られていないかもしれない。
この「無関心」が、コンゴの人道危機を更に深め、紛争下に生きる人々の生活を更に苦しめることに繋がっているのだ。特に、コンゴ東部にはあらゆる武装組織が跋扈し、日々数十人~数百人の規模で、女性へのレイプが繰り返されている。
コンゴ紛争では、少年兵が麻薬漬けにされた
コンゴの紛争では、多くの子ども達が軍隊に徴兵され、「使い捨て道具」として危険な戦闘へ駆り出されてきた。少なくとも3万人以上の子どもが兵士にさせられ、コンゴ東部地域のある戦闘では、部隊の6~7割が子ども兵だったとも言われている。
子ども同士が銃を向け合い、殺し合いをしている様子は、想像に難い。
子ども兵の役割は様々だ。敵対勢力との戦闘や村の襲撃に加担させられたり、人間地雷探知機として地雷原の上を歩かされたり、新たな子どもの誘拐を任されたりする。
他にも、武器や食料などの荷物運びといった雑用から、女の子であればレイプや強制結婚の対象になることもある。
また、軍隊によっては、麻薬やアルコールで子ども兵を洗脳するところもあり、彼らは肉体的にも精神的にも大きな傷を負うことになるのだ。仮に軍隊を脱退することができたとしても、幼い頃に教育の機会を奪われ、戦うことしか教えられてこなかった少年兵たちが一般社会で生計を立てることはとても難しい。
それどころか、家族や地元の人々から偏見や差別を受けるなど、厄介者として扱われることもある。従軍中に麻薬やアルコールの中毒となってしまった元子ども兵は、社会復帰もさらに難しくなる。
私が活動するウガンダでも、内戦中には3万人以上の子どもが兵士として動員された。14年間を反政府軍で過ごした元少女兵のインタビューをこちらの記事で紹介している。
➡ウガンダ内戦では何が起きた?14年間子ども兵として戦った女性インタビュー - 原貫太のブログ
レイプに傷つくコンゴの女性たち
子ども兵と同様、コンゴの紛争によって大きな被害を受けているのが、女性だ。
コンゴ東部は「女性にとって世界最悪の場所」と形容されることもある。日々数百人もの規模でレイプが横行することもあるからだ。
コンゴ紛争では、深刻な数の女性に対する性的暴力の被害が報告されている。国連人口基金によると「1998年以降、推定20万人の女性と少女が性的暴力の被害を受けた」と言われている。
レイプの対象となるのは成人女性だけでなく、10歳にも満たない少女までもがその被害に直面している。中には4歳の女の子がレイプされたケースもある。
前線で戦う兵士が自身の性的欲求を満たすために行われることもあるが、コンゴでは多くの場合、攻撃先の家族を崩壊させるために、レイプが武器として使用されることがあるのだ。
立教大学特任准教授の米川正子氏は、「戦争の武器」としてのレイプについて、以下のように述べている。
性的テロリズムが「戦争の武器」として使われるのは、それが有効でかつ安価な武器だからであり、若者、特に失業中の若者を洗脳すれば、即使用できる。
その上、性的テロリズムは1人に対して使われる武器だが、それは被害者の周辺で水平と垂直の方向に打撃を与える強力で影響力のある武器でもある。まず水平(家族、コミュニティー)に関して、サバイバーの女性の夫や子供たちなど家族全員にトラウマが広がった後に、恐怖心がコミュニティー全体と社会に拡散し、最終的に社会が破壊される。
さらに、垂直方向(次世代)にも影響が及ぶが、それはレイプのサバイバーから生まれた子どもたちは望まれないまま生まれたために人間関係の問題に、そして子どもたちの父親がわからないという家系の問題に直面する。
その子どもたちはエイズにかかっている可能性があるため、サバイバーの子孫たちを含む家族全体が破壊される。身体的にも精神的にも受けた打撃は殺害と同じように深刻であることがわかるだろう。
(「ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―」より引用)(註:筆者が適宜改行を加えています)
コンゴ東部では反政府軍だけでなく、政府軍の兵士による女性への性暴力も行われている。その手法は、家族やコミュニュティーの前で行う集団強姦や性器を刃物で傷つけるなど、残忍なものが数多く報告されている。
レイプを受けたコンゴの女性たちは、肉体的に傷つけられるだけでなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患うなど、精神的にも大きな傷を抱えることになる。夫や家族からも「汚れている」「エイズに感染している」と見捨てられ、生まれ故郷からも見放されてしまうことが多々あるのだ。
コンゴ紛争と日本の生活の繋がり 紛争鉱物とは
その一方で、コンゴで起きている紛争は、先進国に暮らす私たちと決して無関係だと言えない。世界最大とも言われるコンゴ紛争の大きな要因を担っているのが、現代の生活に欠かせない存在となった、スマートフォンを始めとする電子機器だ。
これら電子機器には大量のレアメタル(希少金属)が使用されているが、例えば電子回路のコンデンサに使われているタンタルという希少金属の原材料は、推定6割以上がコンゴに眠っていると考えられている。
このレアメタルはコンゴの武装勢力の資金源となっており、紛争の規模を広げ、そして長引かせている一因を担っている。
近年ではスマートフォンやタブレットなどの情報電子機器が発達してきたことにより、世界的に需要が急増しているレアメタル。先進国でこのレアメタルの需要が高まれば高まるほど、それらの権益を抑えている武装勢力に資金が流れ込み、紛争による犠牲者が増えるという構造が出来てしまっている。
一説によれば、一月で約50万$(約6000万円)の資金が武装勢力に流れ込んでいるとも言われているほどだ。
また、レアメタルを発掘する鉱山では、深刻な児童労働も報告されている。武装勢力は子どもたちを勧誘、または誘拐し、崩落の危険性も高い狭い地下道の中で働かせている。7歳の子どもまでも働かされているという報告も存在する。
先進国の豊かな生活は、コンゴに生きる人々の犠牲の上に成り立っていると言えるだろう。アフリカにおける紛争の多くがこういった資源問題と密接に関係していることを、以下の記事で詳しく解説している。
➡アフリカの内戦がなくならない2つの原因【アフリカの中ではなく、外を見よう】
絶望から立ち上がるコンゴの女性
言葉にならないような苦しみを経験したコンゴの女性たち。しかし、認定NPO法人テラ・ルネッサンスが行っている活動によって、自尊心を取り戻した一人の女性がいる。
ステラさん(仮名)は、元々小さな農村で生まれ育った。長期化する紛争の影響によって経済的には決して恵まれない生活を送っていたが、家族と共に幸せな日々を過ごしていた。
ところが、彼女はわずか13歳の時に男性兵士からレイプされ、そして両親も紛争に巻き込まれて亡くなった。性的暴力を受けた彼女は近隣住民からの差別や偏見の対象となり、それからの彼女は生きる術もなく、一人過ごす辛い日々が続いた。
小川真吾氏が初めてステラさんに出会った時は、性的暴力を受けたこと、また紛争で両親を亡くしたことから彼女は心に大きな傷を負っており、「私は誰からも必要とされていない人間なんだ」とすら語っていた。
その後、ステラさんを支えたいと考えた小川氏は、彼女と一緒に洋裁の職業訓練を始める。
訓練を始めてすぐの頃は、ミシンを上手に扱うことができず、なかなか上手くいかない毎日。しかし、訓練を重ねるごとに少しずつ技術が上達し、ステラさんは自分の手で洋服を作ることができるようになった。
そして初めて、自分で作った洋服を身に付けたお客さんから「ありがとう」と言われた時の感想を、彼女はこう話す。
「生きていて良かった。私は、誰かに必要とされている人間だと思えるようになりました。」
紛争で傷ついたアフリカの女性たちから、私たちは何を学ぶべきか
私自身、東アフリカのウガンダ共和国に滞在して、反政府組織「神の抵抗軍」に誘拐され、強制的に子ども兵士とされた人たちと、一緒に時間を過ごしていた。
知れば知るほど、その不条理さ、問題の根深さに、絶望すら感じそうになる子ども兵問題。12歳で誘拐された元少女兵アイ―シャさんから話を聞いた時、従軍中の経験を辛そうに、そして悲しそうに話す彼女に対して、私は何と声をかければいいのか分からなかった。
この問題に対して、微力すぎる自分が、何も出来ない自分が、本当に悔しかった。
ただ私は、社会復帰施設で訓練に臨む元子ども兵たちの顔を、今でもはっきりと覚えている。私には想像も出来ないほど、壮絶な幼少期を過ごしてきた彼女たち。
それにもかかわらず、彼女らの顔には笑顔が溢れ、そして未来への希望を語っていた。彼女らの変わる力に、何度も驚かされた。
現在も紛争が続く、南スーダンから逃れてきた女性もそうだ。グレイスさん(仮名)は初めて出会った今年2月、彼女は暗い顔で、紛争によって夫と生き別れたこと、現在は仕事もなく焚木拾いで小銭を稼いでいることを、私に語ってくれた。
寂しそうな眼差しで、まだ幼い子どもの将来を心配している様子が印象的だった。彼女のストーリーは、拙著『世界を無視しない大人になるために』でも取り上げた。
ただ、仕事を手にして、僕と一緒に働く今の彼女は、表情も明るく、日本人スタッフたちとも時々冗談を言い合っているくらいだ。最初に出逢った時と比べると、まるで別人のようだった。
人は、何度だって立ち上がれる。何度だって、挑戦することができる。そんなあたりまえ過ぎることを、コンゴ、ウガンダ、南スーダンで力強く生きる彼女たちが、私に教えてくれている。そんな気がした。
『世界を無視しない大人になるために 僕がアフリカで見た「本当の」国際支援』
「脱走を試みましたが捕まり、鞭で200回叩かれました。」
14年間を反政府軍で過ごした元少女兵との出会い。アフリカでの「原体験」を書いた『世界を無視しない大人になるために 僕がアフリカで見た「本当の」国際支援』。ただ僕たちが「与える」「教える」だけが国際支援のあるべき姿ではない。
絶望的な状況に置かれながらも、自分たちの力で困難を乗り越えていく彼らの姿から、僕たちが学ぶべきことはたくさん存在する-。
この本は、僕の処女作にして、渾身の力で書いた一冊。一人でも多くの人たちに届き、「世界を無視しない大人」がもっと増えてほしい。
『世界を無視しない大人になるために』は第一章までを無料公開しています➡世界を無視しない大人になるために【少女兵との出会い - 第一章まで無料公開】
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