「資源の呪いとは何だろう?」
「なぜ天然資源が豊富にある国が、いまだ貧困から抜け出せないのか?」
このような疑問にお答えします。
フリーランス国際協力師の原貫太です。個人でアフリカ支援をしながら、YouTubeやブログでアフリカの問題を発信しています。
豊富な天然資源が存在するのに、貧困の深刻化や経済成長の遅さに苦しむ国があります。私が関わってきたアフリカ地域は、「資源の呪い」の最たる例と言えるでしょう。
「資源の呪い」とはいったい何なのか?アフリカ地域を具体例にしながら、わかりやすく解説します。
YouTubeでも解説しました。動画のほうがわかりやすいです。
資源の呪いとは
資源の呪いとは、石油や鉱物などの天然資源が豊富に存在する国ほど、貧困の深刻化や経済成長の遅さに苦しめられているという現象を意味する経済用語です。「豊富さの逆説(paradox of plenty)」と呼ばれることもあります。
一般的に考えると、天然資源が豊富に存在するほど、その国は資源を活かして貧困を削減したり、経済成長したりできるように思われます。
しかし、現実の世界を見てみると、まるでその資源によって呪われているかのように、逆に貧困に苦しめられたり、経済成長できない実態があります。
例えば1960年代にはオランダの領海で天然ガスが発見されましたが、その後のオランダは低成長に苦しむことになります。天然資源の輸出によって国内の製造業が衰退し、失業率が高まったからです。
近年では、例えばダイヤモンドが豊富に産出される西アフリカのシエラレオネ、レアメタル(希少金属)が豊富に産出される中部アフリカのコンゴ民主共和国では、貧困や紛争に長らく苦しんできた例もあります。
資源の呪いはなぜ起きるのか?
なぜ資源の呪いは起きるのか?その理由を、ここでは3つ挙げます。
- 資源採掘以外の産業が発展しにくいから
- 汚職や政治腐敗が蔓延するから
- 資源を巡った紛争が起きるから
資源採掘以外の産業が発展しにくいから
一つ目の理由は、資源に依存することによって、他の産業が育ちにくくなるからです。
天然資源が豊富に存在する国の権力者たちは、国内のインフラを整備したり、教育機会を広げたりする努力をしなくても、資源産業から莫大な富を得ることができます。
資源産業以外の国内産業が発達しなければ、市場の空洞化が発生し、富の再分配が行われません。
その結果として、資源産業に関わる一部の権力者たちは莫大な富を得られる一方、一般市民は資源の恩恵を受けることができず、貧富の格差が極端に広がってしまうのです。
また、資源採掘の権限や技術を持っているのは、その多くが外国政府や外国企業です。資源から得られる富の多くが外国に流れてしまうことも、資源の呪いが起きる理由です。
汚職や政治腐敗が蔓延するから
二つ目の理由は、資源が豊富に存在することで、汚職や政治腐敗が蔓延しやすくなるからです。
資源が豊富に存在する国の政府は、資源採掘の権利を外国企業に売り渡すことで、莫大な収入を得ることができます。
国家の運営をしていく上で、資源から得られる収入を頼りに出来るため、国民からの税収に頼る必要がありません。
このような状況下では、国民の同意を得ることなく政策を進めることが可能となり、一部の権力者たちによる独裁が進んでしまいます。
また、独裁国家の政府は民衆による暴動や他国からの侵略など、政府の転覆を何よりも恐れています。
そのため国内インフラや教育、医療、社会福祉の整備よりも、軍事費に多くの予算を割く傾向があるのです。
結果として軍事独裁国家が誕生し、その代わりに国内の貧困削減や経済成長は後回しにされてしまうのです。
資源をめぐる紛争が起きるから
三つ目の理由は、資源をめぐる紛争が起きるからです。
資源の呪いの具体例として頻繁に挙げられるアフリカ地域の場合、資源の権益をめぐる紛争が起きることも、経済発展できない大きな理由になっています。
例えばアフリカ中央部に位置するコンゴ民主共和国は、金や銅、レアメタルなど、豊富な天然資源が眠っていることで有名です。
しかし、コンゴでは天然資源を手に入れるために、周辺国が侵略をしてきたり、政府軍や民兵同士の争いが頻繁に起きたりしています。
資源の権益を手に入れることができれば、豊かになれる。そのためには、同じように資源を手に入れたい勢力と闘わなければならない―。
このように考えている国や組織が多く、紛争が勃発しやすいため、経済発展することが難しくなるのです。
天然資源が豊富でも「資源の呪い」が起きないノルウェー
資源の呪いは、天然資源が豊富に存在する国すべてで起きるわけではありません。
例えば北欧のノルウェーは、豊富な天然資源を活かし、高所得を実現させている国の一つです。
石油や天然ガスに恵まれている北欧のノルウェーは、国連開発計画が発表している「人間開発指数ランキング」においても、世界189か国中1位となっています。
豊富な天然資源を経済発展に活かせるか、それとも資源の呪いに苦しめられるかは、政府の統治能力にも大きく左右されます。
では、なぜアフリカの多くの国々は、資源の呪いに苦しめられているのか?その理由は、アフリカの特殊な歴史にあります。
16世紀から19世紀半ばまで続いた奴隷貿易、19世紀末から20世紀中盤まで続いたヨーロッパによる植民地支配、20世紀末まで続いた冷戦下での主要関係国による介入など、アフリカは数百年間にわたって西欧列強に翻弄されてきた歴史があります。
ヨーロッパやアメリカ、日本など「先進国」と呼ばれる国々が、数百年をかけて少しずつ近代国家としての発展してきた一方、アフリカの多くの国々は西欧列強に翻弄されてきたがゆえに、近代化の歴史を欠いています。
そのような「歴史の欠如」こそが、国家の基本的な役割である富の再分配、また民主主義のような近代的システムが根付きにくい原因になっています。
その結果として、アフリカは「資源の呪い」にも苦しめられやすくなるのです。
資源の呪いに苦しみ続けるコンゴ
アフリカ大陸の中でも、最も「資源の呪い」に苦しみ続けている国の一つが、コンゴ民主共和国です。
コンゴ民主共和国は、金や銅、ゴム、木材、スズ、コバルト、ダイヤモンドなど、豊富な天然資源が眠ることで有名です。
近年注目されているのが、コンゴ東部に眠る希少金属、いわゆる「レアメタル」の存在です。
僕たちが普段の生活で使用しているスマートフォンやパソコンなどの電子機器には、レアメタルの一つ、コバルトが使われています。
世界で産出されるコバルトのうち、約50%がこのコンゴに集中していると言われているのです。
その一方でコンゴは、豊富に眠る天然資源のせいで、植民地時代にヨーロッパ人が到来して以来、様々な搾取に苦しんできました。
中でも「人類史上最悪の歴史の一つ」として知られているのが、19世紀にベルギー国王のレオポルド2世によって行われたコンゴの私領地化です。
私領地下とはつまり、日本の面積の約6倍もある非常に広大なコンゴの土地が、レオポルド2世というたった一人の人間の土地にされてしまったということです。
コンゴに暮らしていた先住民の人々は、ゴムをはじめとした天然資源を採取するため、劣悪な環境で強制労働をさせられました。
ノルマを満たさない労働者は手首を切断されるなど、現地では様々な残虐行為も行われ、伝染病なども含むコンゴ人の犠牲者数は、この間だけでも数百万人に上ると言われています。
コンゴには様々な天然資源が眠っているにもかかわらず、この豊かな資源から生まれた利益がコンゴの人々に還元されることはありませんでした。
本来であれば、その豊かな天然資源を自分たちで利用し、経済的に恵まれた国になっているべきコンゴ。
しかし、生活の質や経済発展の度合いを示す指標「人間開発指数」では、コンゴは常に世界最貧国の一つになっています。
現在でも、資源が豊富に眠っているコンゴ東部では紛争が続いており、まさにコンゴは「資源の呪い」に苦しみ続けている国なのです。
さいごに
資源の呪いについて解説してきました。
資源の少ない国の日本に暮らす僕たちからすると、石油や鉱物など、天然資源が豊富に眠る国に対して、うらやましく感じるかもしれません。
しかし、これまでの歴史を見ても、現在の世界情勢を見ても、資源が豊富に存在すればするほど、経済成長することが難しいというパラドックスが存在するのです。
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