僕が初めて国際協力の世界に足を踏み入れたのは、大学一年も終わりに差し掛かった2014年2月。フィリピンのスタディーツアーだ。
ツアーに参加しようと思った動機は、正直に大したものではなかった。「英語を使いたい」「海外に足を運びたい」、そして「就活で話せる話題が欲しい」。そんなひょんな動機で飛び込んでいったスタディーツアーだった。
プログラムも至って普通の内容、現地滞在はたったの6日間だった。ストリートチルドレンに給食活動をしたり、スラム街の子どもと交流したり、孤児院で勉強を教えたり、他の参加者と何ら変わることなく、僕はその「ツアー」を楽しんでいた。
最終日、日本への帰路につくため、車でマニラ空港へ向かっていた。程よい疲労感とともに、「充実した6日間だった。日本に帰国した後も、自分にやれることをやろう。」そんな、ある種の達成感も感じながら、車窓に流れるマニラの景色を楽しんでいた。
そんな時、ふと窓の外へ目をやると、僕の目に衝撃的な光景が飛び込んできた。
空港に向かう三車線の大通り、車が引っ切り無しに通る道の上を、幼い少女が裸の赤ちゃんを連れながら、車の窓ガラスを叩いては物乞いをしていた。正直に、目の前で一体何が起きているのか、その光景が意味するものを理解するのに苦しんだ。
「彼女は何をしているんだ…?今までさんざん"支援"に携わってきたのに、まだここにも『困っている人』がいる。僕がこの6日間でやってきた活動は、一体何だったんだ。」そんな強い後悔と共に、一瞬にして通り過ぎてしまった彼女に対して何もできなかった自分の無力さが、悔しくてたまらなかった。
そして僕は、空港のトイレに入り、自然と涙を流してしまった。
僕らの生きる世界は、どうしてこんなにもアンフェアなんだ。彼女は自ら望んであの状況に置かれたのではない。
たまたま、生まれた国が悪かったから。たまたま、生まれた環境が悪かったから。そんな「運命」で誰かの人生が決まってしまうこの世の中は、なんて不条理なんだ。
この不条理に、何としてでも抗い続けよう。立ち向かい続けよう。どんなに小さな一歩であっても、前に進み続けよう。その瞬間、僕は自分と誓った。
バングラデシュのストリートチルドレンやウガンダの元子ども兵、そして南スーダンの難民支援を経て、今年5月、僕は国際協力NGOコンフロントワールドを立ち上げた。
コンフロントワールドのビジョンは、「不条理の無い世界の実現」だ。フィリピンで物乞いをする女の子と出会った時から、ずっと変わらない僕の「夢」でもある。
あの日、なぜだか分からないけれど、心が大きく動いてしまった。原体験は言葉にすることが難しいからこそ、何にも代え難い貴重な経験なんだ。大学卒業という、人生の一つの区切りがつく前に、もう一度原点に戻りたい。そして、なぜ国際協力をするのか、なぜ世界の不条理と向き合い続けるのかを、もう一度考えたい。
この4年間で僕は知りすぎた。なぜ世界から戦争がなくならないのか。誰が苦しんでいるのか。そして、一人でできることは、いかにちっぽけであるかを。
国際協力の道を歩み始めた時、根拠のない自信に溢れていた。本気で世界を変えてやると意気込んでいた。あの頃の純粋な気持ちに、もう一度戻りたい。
今年春、卒業前にもう一度フィリピンを訪れたい。僕がこの国の問題に直接的に関わる日は、来ないかもしれない。でも、国際協力を志す大きなきっかけを与えてくれたこの国を、もう一度訪れたい。