原貫太の国際協力ブログ

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ジョセフコニー探索が終了 神の抵抗軍は3万人の子どもを誘拐した

1980年代から20年以上にわたって続き、10万人の犠牲者を産み出したウガンダ内戦。

 

この内戦で3万人の子どもを誘拐し、兵士にしてきたとされる反政府組織「神の抵抗軍」。その司令官であるジョセフコニーの探索・討伐作戦が終了することになった。

 

今月上旬、CNNなど海外メディアが多数報じている。

 

ジョセフコニー探索作戦は、アメリカの支援を受けたウガンダ軍などにより、10年近く続いていた。アメリカはこれまで7億8000万ドルの費用を本作戦に注いでいる。既に一部では撤退が始まり、今年9月には完全撤退する見込みだ。

 

ジョセフコニーには、国際刑事裁判所(ICC)から「人道に対する罪」などの罪状で逮捕状が出ている。現在も、ジョセフコニーは兵士数十人とともに、アフリカ中部に潜伏していると考えられている。

 

 

 

 

ジョセフコニー率いる神の抵抗軍

1980年代後半以降、東アフリカのウガンダ北部では、政府軍と神の抵抗軍との間で戦闘が続き、10万人が犠牲になった。また、一時は200万人以上が避難民生活を強いられていた。

 

神の抵抗軍の司令官ジョセフコニーの首には、500万ドルもの懸賞金が懸けられていたという。

 

神の抵抗軍は、暴力を用いることで人々を服従させようとした。恐怖を植え付けるために、一般住民の耳や唇、鼻を切り落とすといった残虐な事例も数多く報告されている。

 

 

神の抵抗軍は3万人の子ども兵士を産み出した

特筆すべきは、神の抵抗軍による子どもへの犯罪だろう。

 

ジョセフコニー率いる神の抵抗軍は、戦力を補給するため、子どもを誘拐して強制的に兵士に仕立てたり、少女兵は大人兵士と強制結婚させたりなど、非人道的行為が国際社会から強い非難を受けてきた。

 

子どもは従順で洗脳されやすく、強制的に徴兵することが可能なため、すぐに戦力を補充することができるのだ。神の抵抗軍は、子どもたちを”消耗品”として扱ってきたと言えるだろう。

 

その結果、20年以上の内戦によって3万人の子どもが誘拐され、望まない子ども兵士としての生活を強いられてきた。

 

 

イギリスによる分断統治が神の抵抗軍を創り出した?

ジョセフコニーはじめ、神の抵抗軍の兵士たちによる極悪非道な話を聞けば、多くの人は「アフリカには争いが絶えない」「アフリカは野蛮だ」と感じてしまうかもしれない。

 

しかし、この神の抵抗軍が誕生した背景には、イギリスによる植民地支配の爪痕が存在するのだ。

 

イギリスは宗主国時代、ウガンダ南部の人々には教育機会をはじめ数多くの特権を提供してきた一方、北部に暮らすアチョリ人をしばしば迫害してきた。ジョセフコニーも、アチョリ人の一人だ。

 

そのため、北部の人々が抱える不満は宗主国イギリスだけではなく、南部の人々にも向けられる。ヨーロッパ各国は、アフリカを植民地支配にするにあたり、このような「分断統治」をしばしば導入してきた。

 

ウガンダ周辺国のルワンダやブルンジでは、宗主国ベルギーによってフツ人とツチ人の対立が創り出され、独立後の紛争やジェノサイドに繋がっている。

 

 

ジョセフコニーによる神の抵抗軍の誕生

1962年にイギリスから独立を果たした後のウガンダでは、軍事クーデターによって政権が何度も変わる。

 

1985年には、北部最大民族であるアチョリ出身の軍人が政権を奪うが、その数か月後には南部出身で、現ウガンダ大統領であるムセベニが率いる「国民抵抗軍」によって政権が奪われた。つまり、ムセベニは30年以上も大統領の座に居座っている。

 

アチョリの人々は北部に逃げるが、それ以降ウガンダ政府は、北部で暮らす人々を度々虐げてきた。植民地時代の分断統治もあり、南部に比べれば長い間貧しい生活を強いられてきた北部の人々は、ますます不満を募らせていくことになる。

 

このような状況の中、霊的啓示を受けたと名乗り出たアチョリ出身の女性預言者アリスによって、ムセベニ政権打倒を掲げたカルト宗教的要素を持つ反政府組織が結成される。その後、その組織に参加したジョセフコニーによって誕生したのが神の抵抗軍なのだ。

 

 

神の抵抗軍が再び息を吹き返す懸念も

ウガンダ政府軍による神の抵抗軍掃討作戦の甲斐もあり、戦力の小さくなった神の抵抗軍。ウガンダでは現在、神の抵抗軍の活動は確認されていない。

 

規模は縮小している一方で、未だに神の抵抗軍は中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国東部、南スーダンの一部で活動していることが指摘されている。

 

国連安全保障理事会に提出されたレポートでは、「神の抵抗軍」による42件の襲撃が報告されており、2016年第一四半期だけでも民間人6人の殺害と子ども252人の誘拐が起きている。

 

 

報道によれば、今回のジョセフコニー探索作戦が終了した大きな理由として、アメリカ、ウガンダ当局がともに「神の抵抗軍はもはや脅威ではなくなった」ことを挙げている。

 

その一方、神の抵抗軍が再び力を取り戻す懸念も指摘されている。同地域では紛争が続く地域も多く、あらゆる武装組織が活動しているなど、治安も安定していない。

 

そのことを考えれば、神の抵抗軍と他武装組織が手を結び、襲撃や子どもの誘拐が再び繰り返される可能性は、十分に考えられるだろう。

 

 

14年間神の抵抗軍に拘束されていた元少女兵

僕が2016年1月に出会った元少女兵のアイ―シャさん(仮名)も、12歳で誘拐され、26歳で脱退するまでの14年間を神の抵抗軍で過ごした。

 

「誘拐された時から、森の中を逃げ回る生活が始まりました。」彼女の経験談はあまりにも壮絶で、メモを取る手が震えてしまったのを記憶している。

 

インタビューの全貌は以下の記事で紹介している。関心ある人はぜひ読んでみてほしい。

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