原貫太の国際協力ブログ

フリーランス国際協力師原貫太のブログです。国際協力やNPO・NGO、アフリカ、社会問題などのテーマを中心に解説しています。

現代の奴隷とは?定義や実態をわかりやすく解説【日本にも37,000人いる】

フリーランス国際協力師の原貫太(@kantahara)です。

 

みなさんは「現代の奴隷」という言葉を聞いたことはありますか?

 

「奴隷」と聞くと、多くの人は世界史で習う「三角貿易」でアフリカからアメリカ大陸に強制的に連行され、プランテーションで働かされていた人々を思い浮かべるかもしれません。

 

そして、この奴隷制度はアメリカ南北戦争、その後のリンカーン大統領による「奴隷解放宣言」によって解決されたと考えていると思います。

 

しかし、この「奴隷」は形を変え、発展途上国を中心に現代でも続いていると言われています。現代の奴隷を詳しく解説します。

 

 

YouTubeでは映像付きで解説しています。まずはこちらをご覧いただくと、より深く理解できると思います。

 

現代の奴隷の定義

現代の奴隷

 

現代の奴隷とは、多額の借金を抱えている強制労働者、性的労働のために人身売買された人、また強制結婚をさせられた人などを指します。暴力や脅迫によって「自由」や「人権」が妨げられているために、「奴隷」という呼び名が付いているのです。

 

ただ、現代の奴隷の定義はいくつか存在すると言われており、これまで国際法などによって世界共通の明確な定義は作られていません。

 

参考までに、2019年1月1日からオーストラリアで施行された「2018年現代奴隷法」では、現代の奴隷は以下のように定義されています。

 

  1. 奴隷状態、強制労働、強制結婚、人身売買、臓器売買、借金による束縛等、連邦刑法に違反する奴隷とその類似の行為(オーストラリア外で行った場合を含む。)
  2. 「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」に規定された人身売買
  3. 国際労働機関の「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約」に規定された最悪の形態の児童労働「オーストラリアの現代奴隷法」より引用)

 

現代の奴隷が搾取されている一方、その奴隷を「使役」している一部の人には莫大な富がもたらされていると考えられています。そのため、現代の奴隷は非常に深刻な問題として世界中で議論されているのです。

 

三角貿易時代の奴隷制度とはもちろん形は異なりますが、本質的には当時と一緒のことが現代でも続いているのです。

 

現代の奴隷の数は?

オーストラリアの人権団体Walk Free Foundationが出している「Global Slavery Index」によると、世界で現代の奴隷状態にある人の数は、大人と子どもを合計すると4030万人にも及ぶ事が明らかになっています

f:id:KantaHara:20200518133140p:plain

Global Slavery Indexより引用

  

上の図を見るとわかりますが、現代の奴隷のうち71%が女性、29%が男性となっています。

 

このうち1540万人は「強制結婚」という形で現代の奴隷になっていますが、その多くは女性の立場が弱い発展途上国で起きています。

 

現代の日本では、基本的には結婚は自由意思に基づくものですが、アフリカや中東、南アジアの貧困地域だと、現在も親が借金返済のために自分の娘を嫁がせたり、児童婚させたりするケースが存在します。

 

こういったものが「強制結婚」として、現代の奴隷に繋がっています。男性よりも女性のほうが現代の奴隷の割合が多くなる原因です。

 

また、4030万人いる現代の奴隷のうち、2490万人は強制労働下にあるとされています。

 

英語で「bonded labor」という言葉があります。これは、高金利のローンを返済するために家族全員が低賃金で働き続けなければいけない状態を指すのですが、つまりは働いても働いてもローンを返済しきれない状態を指します。

 

借金を返すため、劣悪な環境や待遇で半永遠的に働き続けなければならない人々が、こういった強制労働下にある現代の奴隷に含まれるのです。

 

現代の奴隷問題に対する取り組みは?

Global Slavery Indexは、G20*に属する国々は、政府レベル、商業レベル、消費者レベルに関係なく、「強制労働(現代の奴隷)によって生み出された可能性のある商品やサービスを仕入れることを止めるため、行動を起こさなければならない」と呼び掛けています。

f:id:KantaHara:20200518134537p:plain

Global Slavery Indexより引用

 

*G20...主要国首脳会議(G7)に参加する7か国、EU、ロシア、および新興国11か国の計20か国・地域からなるグループ 

 

 上の図によると、G20の中で具体的な行動を起こしている国々は

 

  • ブラジル
  • 中国
  • フランス
  • ドイツ
  • イタリア
  • イギリス
  • アメリカ

 

その一方で、行動が不十分な国々は

 

  • アルゼンチン
  • オーストラリア*
  • カナダ
  • インド
  • インドネシア
  • 日本
  • メキシコ
  • ロシア
  • 南アフリカ
  • サウジアラビア
  • 韓国
  • トルコ

 

と指摘されています。

 

*オーストラリアでは2018年11月29日、「2018年現代奴隷法」の連邦上院修正案を可決し、2019年1月1日より施行されています。

 

日本には現代の奴隷が37,000人いる

Global Slavery Indexによると、日本にも現代の奴隷はいるとされています。その数なんと、37,000人

現代の奴隷

Global Slavery Indexより引用


「先進国の日本に現代の奴隷がいるわけない!」と思った人もいるかもしれません。僕も最初は驚きました。

 

しかし、貧困状態に苦しむシングルマザーの女性が風俗業界で働かざるを得なくなったり、フルタイムとして働いているのに十分な収入が得られず、働いても働いても貧困状態から抜け出せない「ワーキングプア」の存在を考えると、37,000人という数にも納得がいってしまいます。

 

ちなみにですが、2016年時点では日本には29万人の「現代の奴隷」がいたとされ、25位にランクインしていました。その時は24位のイエメン(約30万人)と26位のシリア(26万人)に挟まれていましたね。

 

途上国における現代の奴隷は、一筋縄では解決できない

バングラデシュ 児童労働

バングラデシュで筆者撮影


現代の奴隷は、主には貧困が問題になっている発展途上国で起きています。そういった国では法や警察の基盤が弱いことが、現代の奴隷問題が深刻化する大きな原因でしょう。

 

そのため、現代の奴隷に対する法を整備したり、警察が強制的に介入したりすれば、解決できると考える人もいるかもしれません。

 

しかし、この現代奴隷の問題は、一筋縄で解決できるほど単純ではないのです。

 

なぜかというと、現代の奴隷が深刻な発展途上国の多くでは、高い失業率が問題になっています。大学を卒業しても就職先が見つからない、そんな国も多いです。

 

また、日本のような生活保護がある国も少なく、社会福祉の基盤も脆弱です。多くの人たちが路上で物乞いをしながら生活をしています。

 

そんな経済状況にある国で強制的に「現代の奴隷」をやめさせる動きをしてしまうと、奴隷時代の仕事を失った人々が路頭に迷ってしまったり、さらに劣悪な環境の仕事に手を染めてしまったりする可能性があるのです。

 

現代の奴隷問題を解決するためには、法や警察など、上からのアプローチも欠かせません。しかし、それと同時に「Decent Work」、つまり「働きがいのある人間らしい仕事」の機会が十分に創出されなければ、根本的な解決にはつながらないのです。

 

現代の奴隷に支えられた僕たちの生活

バングラデシュ 児童労働

バングラデシュのスラム街。筆者撮影

 

日本にも現代の奴隷はいるとはいえ、どこか遠くの世界で起きている問題に感じた人もいるかもしれません。

 

しかし、グローバル化が進み、世界中の人や物が繋がり合っている今の時代は、自分の豊かな生活が誰かの犠牲の上に成り立っているかもしれない。そう考えなくてはなりません。

 

例えばジュエリーが好きな人は、今自分が身に着けている宝石が、もしかしたら遠くの国の鉱山で強制労働下にある現代の奴隷が採掘したものかもしれません。

 

例えばファストファッションが好きな人は、今自分が身に着けている洋服が、もしかしたら遠くの国の工場で強制労働下にある現代の奴隷が裁縫したものかもしれません。

 

現代の奴隷問題を解決するためには、政府や企業だけではなく、消費者の私たちがこの問題を知り、考えを変え、行動を起こしていく必要があります。

 

まずは、伝えることから。ぜひ、この記事を周りの家族や友人にシェアしてくれたら嬉しいです。

 

現代の奴隷にも関係のあるストリートチルドレン 問題をこの記事で詳しく解説しています⇩

www.kantahara.com