原貫太の国際協力ブログ

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ホテルルワンダは嘘?ルワンダ虐殺の知られざる「もう一つの真実」とは

フリーランス国際協力師の原貫太(@kantahara)です。ルワンダ虐殺の問題を4年以上追い続けています。

 

僕は映画『ホテルルワンダ』は3回視聴したのですが、ルワンダ虐殺の複雑な歴史や背景を知れば知るほど、あの映画に対する感想は変わるものだと考えています。

 

「ホテルルワンダは嘘だ」と主張されることもありますが、その理由や対立構図もようやくわかってきました。

 

ルワンダ虐殺の問題を研究し続けてきた僕が、ルワンダ虐殺の知られざる「もう一つの真実」とともに、『ホテルルワンダ』を鑑賞した感想を紹介します。

 

 

ホテルルワンダのあらすじ ルワンダ虐殺とは?

ホテルルワンダは嘘?

ルワンダ虐殺の跡地で撮影した犠牲者の遺骨

 

『ホテルルワンダ』で描かれた1994年のルワンダ虐殺では、当時ルワンダで国民の約85%を占めていたフツ族の民兵によって、国民の約15%を占めていた少数派のツチ族、また虐殺に否定的だった穏健派のフツ族約80万人が殺害されました。

 

『ホテルルワンダ』では、主人公ポール・ルセサバギナが支配人を務めるホテルに虐殺の被害者たちを匿い、家族と生き延びるために奮闘するストーリーが描かれています。

 

以下ではもう少し詳しく『ホテルルワンダ』のあらすじを紹介します。多少のネタバレを含むため、未視聴の方はご注意ください。

 

 

『ホテルルワンダ』の舞台は1994年のルワンダです。ルワンダ虐殺が始まったのが4月7日のため、映画は恐らく3月頃くらいからストーリーが始まっているのではないかと思います。

 

一時は和平調停も結ばれ、落ち着きを取り戻すかのように思われたルワンダ首都キガリ。しかし、4月6日に起きたフツ族系大統領の暗殺をきっかけに、フツ族の民兵たちによるツチ族の虐殺が始まります。

 

そんなルワンダ内戦の中、『ホテルルワンダ』の主人公ポール・ルセサバギナは1200名以上の避難民を自身が支配人を務める高級ホテル「オテル・デ・ミル・コリン」に匿いました。

 

虐殺を主導するフツ族の民兵にとっては、ツチ族を助けようとするフツ族の人間は「裏切り者」と攻撃対象にしていたため、フツ族の主人公ポールも何度か危険な目に遭っています。

 

結局、ラストは…と、ここからのストーリーはまだ観ていない方のために書かないでおきますね。

 

『ホテルルワンダ』は初見の人にとっては非常にショッキングな内容ですが、基本的には実話に基づいた話です。

 

なお、ルワンダ虐殺の歴史をさらに詳しく知りたい方は僕のYouTubeチャンネルでも解説しているので、あわせてチェックしてみてください。

【ルワンダ虐殺の真実】なぜ国連は50万人の命を救えなかったのか? - YouTube

 

ホテルルワンダから感じる民族対立の単純な構図

ホテルルワンダは嘘だった?

ルワンダ虐殺で約一万人が殺害された教会の跡地


『ホテルルワンダ』の主人公ポールの妻はツチ族だったため、虐殺の標的になりました。映画の中では家族全員で生き延びようと、必死に奮闘するポールたちの姿が描かれています。

 

こういったシーンには、ルワンダ内戦のリアルを感じますね。

 

その他にも、『ホテルルワンダ』では

 

  • 外国人だけがルワンダから避難
  • ルワンダ虐殺の報道を見ても世界は何も動かない。むしろ国連も撤退
  • 大国が介入するか介入しないかは、国益に基づく恣意的な判断による

 

といった内容が描かれており、ルワンダ虐殺から20年以上経った今でもアフリカや中東で紛争が続く世界の状況を見ると、考えさせられるものがあります。

 

しかし、少なくとも『ホテルルワンダ』の映画を観ただけでは、ほとんどの人はこんな感想を持つのではないでしょうか?

 

 

「フツ族は酷い人たち。ツチ族は可哀想な人たち。」

 

 

実際に『ホテルルワンダ』を初めて鑑賞した友人は

 

少なくともこの映画からは、虐殺を主導したフツ族が酷い人たちで、ツチ族は可哀想な人たちという印象を抱いた。ラストのシーンで少しだけ映ったツチ族の反乱軍は、内戦を終わらせた「英雄」のようにすら見えた

 

こんな感想を抱いたと話していました。

 

ホテルルワンダでは描かれなかったルワンダ虐殺の「もう一つの真実」

ホテルルワンダは嘘だった?

ルワンダ首都キガリにあるルワンダ虐殺記念館

 

ルワンダ虐殺には、『ホテルルワンダ』の中では描かれなかった「もう一つの真実」が存在します。いくつかご紹介します。

 

ルワンダ虐殺で犠牲になった人の数はツチ族よりフツ族が多い?

ルワンダ虐殺に関するある研究によれば、「ルワンダ虐殺ではフツ族が殺したツチ族より、ツチ族が殺したフツ族の方が多かった」という指摘もあります。

 

実際、現大統領のポール・カガメ率いるルワンダ愛国戦線、通称RPFはルワンダの政権を掌握した後も、コンゴ東部で虐殺を続けていたことが国連報告書で暴かれています。

 

このRPFは『ホテルルワンダ』のラストシーンで、虐殺を止めた存在として描かれていましたよね。

 

また、ルワンダ国際戦犯法廷の分析では「虐殺におけるフツ族の犠牲者はツチ族の2倍だった」とも言われています*。フツ族を根絶やしにしなければ、ツチ族によるルワンダの支配は難しいと考えたのかもしれません。

 

※小川真吾『ぼくらのアフリカに戦争がなくならないのはなぜ?』P134を参照

 

ルワンダ虐殺の引き金になった大統領暗殺はRPFによるもの?

『ホテルルワンダ』の中では、虐殺の引き金になった当時のフツ族系大統領の暗殺は誰の仕業だったか描かれていません。

 

しかし、最近の研究によればこの暗殺は、ツチ族系のRPFによるものだったという見方が強くなっています。フランス政府は大統領襲撃を指示したのは、当時RPFの司令官を務めていたポール・カガメ現ルワンダ大統領だったと正式に表明しています*。

 

※小川真吾『ぼくらのアフリカに戦争がなくならないのはなぜ?』P134を参照

 

フツ族のリーダーを殺害しない限り、ツチ族がルワンダの政権を奪取することは難しいとRPFは考えていたのでしょう。

 

『ホテルルワンダ』の中では、RPFが侵攻してくるラストシーンでは、まるでRPFが主人公たちを助けてくれた存在のような描かれ方をしています。

 

しかし歴史を紐解いてみると、そもそもルワンダ内戦のきっかけとなった大統領暗殺はRPFが主導した見方が強いのです。

 

ホテルルワンダの映画自体が嘘…?

ホテルルワンダは嘘?

ルワンダは「千の丘の国」と表現されることもある


『ホテルルワンダ』の映画自体に対する批判も存在します。それは、映画の内容が誇張され過ぎているというものです。

 

『ホテルルワンダ』の中では、主人公ポールは命を懸けて虐殺の被害者たちを匿った英雄として描かれています。実際に『ホテルルワンダ』が映画として有名になってからは、ポール・ルセサバギナは世界的に英雄として称賛されています。

 

しかし、僕がルワンダ人の知人や青年海外協力隊としてルワンダで活動していた方から聞いた話では、「あの映画はポールを英雄として誇張し過ぎている」「実際はあれだけ多くの人を救ったわけではない」といった批判もあるようです。

 

実際に現在のルワンダ政府は、『ホテルルワンダ』の内容は嘘だと主張しています。

 

しかし、なぜ『ホテルルワンダ』は嘘といった主張が誕生するのか、その背景にも目を向けなければなりません。なぜなら『ホテルルワンダ』のモデルになったポール・ルセサバギナ氏は、ルワンダ政府を長年批判しているからです。

 

先ほども書いたように、ルワンダ虐殺に関するメインストリームの歴史では「殺されたツチ族の数よりも、フツ族の方が多かった」「虐殺の引き金になった大統領暗殺は、現在ルワンダ政府を率いるRPFによる仕業だった」といった話はされません。

 

そのためルワンダ政府としては、政府批判を続ける『ホテルルワンダ』の主人公ポール・ルセサバギナを黙らせたい、消し去りたいと思いがあると推測できます。

 

実際、2020年8月31日にはポール・ルセサバギナがルワンダで逮捕されたというニュースが世界的に大きな話題になりました。

edition.cnn.com

 

様々な利害関係が渦巻いており、ルワンダ虐殺の歴史は非常に複雑ではありますが、『ホテルルワンダ』の映画で描かれた表面的な内容に惑わされるだけではなく、

 

  • 誰がどんな目的で『ホテルルワンダ』を作ったのか?
  • 誰がどんな目的で『ホテルルワンダ』は嘘だと主張したいのか?

 

にも着目しなければ、本当の真実は見えてこないのです。

 

さいごに

ルワンダ虐殺の歴史を深く勉強した上で『ホテルルワンダ』を視聴すると、こういったひねくれた感想になってしまいます。笑

 

様々な批判はあるものの、『ホテルルワンダ』はルワンダ虐殺の歴史を伝える映画としては素晴らしい作品であると僕は思います。

 

ルワンダは治安も良く、人も優しいため、僕も大好きな国の一つです。国際社会からの援助もあったとはいえ、内戦でボロボロになったルワンダを復興させ、現在の状態までに国を統治するポール・カガメ大統領の手腕には、目を見張るものもあります。

 

しかし、大局的な視点からルワンダ虐殺の歴史や政治に目を向けると、恐ろしい一面も備えている国がルワンダです。ルワンダは「アフリカのシンガポール」と評価されることもありますが、手放しに称賛することはできません。 

 

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