原貫太オフィシャルブログ

フリーランス国際協力師原貫太のブログです。

これから人道支援の道を目指すあなたが今から取り組むべき5つの事(白川優子)

※この記事は国境なき医師団に勤める白川優子さん(@yuko_shirakawa)に寄稿していただきました。

 

「海外で働く」という事は、特に若い人にとっては魅力的な響きかと思います。外国語を駆使し、国際社会の一員として活躍する人たちを見るとカッコよく映るかもしれません。

 

特に「国際協力」「NGOでの活動」「人道支援」という道の中で、誰かを「援助」をするという事に、人生の意味を見出したいと思う人もいるでしょう。

 

私自身、10代の頃からNGOで活動したいという思いを抱えていました。その思いを実際に叶え、2010年より国境なき医師団というNGOに看護師として登録し、これまでに多くの国で人道支援活動をしています。

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戦時下のイエメンで生まれた赤ちゃん

 

もうすぐ10年目になりますが、この仕事はやり甲斐も満足感も得られ、本当にこの道を選んで良かったと思っています。

 

この記事では、これから人道支援の道を目指す人が今どんなことに取り組むべきなのか、私のこれまでの経験を踏まえて5つに絞り、私自身の考えをお伝えしたいと思います。

 

 

1. 世界はどんな協力を必要としているのかを知る

さて、一口に人道支援といっても、分野は多岐に渡ります。

 

私が登録している「国境なき医師団」は医療団体ですが、人道支援とは何も医療に限った事だけではありません。世界ではどんな支援、協力を必要としているのか、まずは広い視野で世界を見てみましょう。

 

例えば、教育の問題を抱えている国・地域はたくさんあります。充分な教育が受けられないばかりに失業率も高く、貧困に陥り、犯罪に手を染める、このようなサイクルを断ち切る目的で教育支援に力を入れている団体も多くあります。

 

また、人権問題にフォーカスし、性暴力、人身売買、児童労働、子供兵士、不当拘束、収容所人権などにまつわる支援活動をしているグループもあります。

 

その他、食料、難民、環境、開発などの支援が必要な場所もあります。世界のどの国・地域で、どんな問題が起きていて、どんな支援が必要なのかをまずは知りましょう。

 

 

2. 自分の軸を決める

人道支援を行うには、自分がどの役割を担うのか、どんな支援ができるのかを考えなくてはいけません。

 

私は看護師として、医療が届いていない人々の元に駆け付けたいと思いました。人によってはそれがお医者さんという職業かも知れませんし、助産師さんかも知れません。

 

また、何も国際協力で求められているのは医療職に限った事ではなく、たくさんの分野や種類の職業があります。例えば国境なき医師団は医療支援団体ではありますが、スタッフの半数近くが非医療者です。病院の建設、電気配線、車両整備、浄水、通信、セキュリティ管理、会計、人事などを担うスタッフたちのおかげで医療が成り立っています。

 

自分はどんな職業を軸にして人道支援を行いたいのかを考えましょう。1で述べた分野を組み合わせる事によって、方向性が見えてくると思います。

 

 

(例)

  • 教師という職業で貧困問題に取り組みたい。
  • 車両のプロとして医療者の安全な移動をサポートし、間接的に現地の人々の命を救うための貢献がしたい
  • 食糧危機の問題を改善するため、長期継続できる農業を広めたい
  • 電気技師として、難民キャンプで暮らす人々に灯りを与えたい
  • 貧困地域に雇用を生み出すシステムを作るため、開発コンサルタントとして現地入りしたい。

 

ポイントは、まずは自分の「人生の軸」になる職業を選ぶ事です。自分が心からやりたい職業・分野を選びましょう。

 

「人道支援をする為にどんな職業を選ぶかを考える」のではなく、「自分の好きな職業の延長線上に人道支援がある、という考えを持つ方が良いでしょう。

 

なぜかというと、人道援助は大変だし、辛い事が多いからです。日本のように思ったとおりに簡単に仕事が進まず、活動中は、落胆、ジレンマ、怒り、ストレス、挫折の連続なのです。

 

情熱や憧れだけでは難しい世界ですが、私がそれでも続けていられるのは「看護師という職業への愛、喜び」があるからです。もし同じ国境なき医師団で働いていても、看護師ではなく、自分にとっては心で選んだものではない職業に就いていたとしたら、ここまで続けていられたかは分かりません。

 

「辛い、やめたい、帰国したい、でも、看護師をしていられる喜びや幸せは何物にも代え難い」と、どんなに辛くても最後にはこのような思いがあるので続けていられるのです。

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初めての海外派遣はスリランカ

 

また、看護師として働ける舞台は、何も人道支援だけではありません。好きな看護師は日本でも続けられます。人道援助の道が自分に合わないとか、辛くてやめたいとか、少しお休みをしたいとか、何らかの理由で去ったとしても、その後も自分の軸が残るように、職業は心が望むものを選ぶことをお勧めします。

 

人によってはこれが電気関係の職だったり、経理だったり、車両整備だったりと、それぞれ違うはずです。逆にいうと、例えば私をロールモデルにして、看護師で人道支援を目指す人がいたとしても、看護師という職業がその人にとって心からやりたいものでなければ、辛くきつい道を歩む事になりかねません。そこは良く自分の心に聞きましょう。

 

 

3. どんな国際協力団体が存在するのかを知る

1、2で自分のやりたい方向のアウトラインはかなりできてくるかと思います。自分のやりたい事が決まったら、次はどの団体で働きたいのかを考えなくてはいけません。

 

そこで、まずは一体どんな国際協力団体が存在しているのかを調べましょう。

 

先日、年に一度の都内で開催される「グローバルフェスタ」という、日本最大級の国際協力イベントがありました。ここに出展された団体だけでも250を超えていたのですが、この業界に長くいる私でもこの数にはびっくりしました。

 

この中には、国境なき医師団のような民間のNGOもたくさんいましたし、国連や、赤十字、外務省関連の団体、そして海外の団体、日本の団体など様々存在し、それぞれの活動内容はそれこそ千差万別でした。

 

このブログの主、原貫太さんも始めからフリーで活動していた訳ではありません。国際協力は、まずはどこかの団体に参加する事から始まります。

 

しかし、こんなにも数多くある団体が存在する中で、一体どうやって選べば良いのか迷いますね。それはもう、自分で調べるしかありません。その際に抑えておくべきポイントを5つあげましたので、参考にしください。

 

 

活動分野

その団体が、何の援助に特化しているのかは、一番興味を持つべきところです。活動場所も、ある国に特定した援助なのか、複数あるのか、あるいはアジアや中東、アフリカなどという地域で特定しているのか、はたまた世界中なのか。

 

設立からの歴史や、業績もしっかりとチェックしましょう。

 

活動内容

その団体の活動分野は希望通りだけど、その内容が自分にとって満足いくものなのかどうかは、また別問題となります。

 

現地の人たちにとって押し付けや自己満足ではない、本当に必要な援助を行っているか、派手なパフォーマンスだけではなく、継続を考えた上で地元に根付いた活動をしているか、実は現地では実のある活動が何もできていないのではないかなど、このあたりの事を調べましょう。

 

一番早いのは、実際にその団体で働いた経験のある人や同じ業界の人からの話を聞く事です。

 

募集職種と応募条件

自分が良いと思った団体で、希望職種を募集していたら、しめたものです。

 

先にも述べましたが、国境なき医師団では医療職のみならず、非医療職のスタッフが多数いて、その割合は約半数を占めています。この辺りがあまり知られていないので、例えば人事や経理専門の方などから「医療者ではないのに、私のような職業でも医療団体で貢献できるなんて」と、びっくりされる事があります。

 

こんな感じで、例えば地雷撤去の団体が、ITのエキスパートを募集しているかもしれませんし、貧困問題を扱う団体で大工を募集している、という事があるかも知れません。そこは目ざとくチェックをしましょう。

 

また、資格の有無、経験年数、求められる語学とそのレベルなどといった応募条件もしっかりと確認し、自分は今応募できる状態なのか、もしくはもっと経験やスキルを身に付けなくてはいけないのかをアセスメントしましょう。

 

それぞれの団体の特性・理念・憲章を知る

活動内容のみに囚われるのではなく、その団体の特性、理念を調べる事は大切です。いくら自分のスキルが生かせると言っても、その団体の理念や憲章が自分と合わなければ、そこで活動を始めたとしても心が苦しくなるだけかも知れません。

 

例えば、政治から完全に独立し中立の立場で活動する事を理念に置いている団体を求めているのか、それとも独立性や活動に制限がかかってしまっても政的機関と繋がっていても良いのか、などです。

 

何が良い、悪いではなく、自分の考え、理念に合うのか合わないか、自分がその団体で働けるかどうか、ということが大事です。これは企業への就職も同じですね。

 

待遇

働く事になるわけですから、当然待遇は気になるところです。

 

お給料の額だけではなく、渡航に必要な諸費用(ビザ、航空券、予防接種)や現地の生活費は誰がもつのか、滞在中の海外保険、2ヶ月以上の場合の社会保険、現地での傷病の際の対応はどうなっているのか、などです。

 

これも良い悪いではなく、自分が納得いくかいかないか、です。入ってから「そんなはずではなかった」という事がないように、事前に確認をしておきましょう。

 

 

4. 語学&コミュニケーション

語学

言うまでもなく、国際協力の海外の現場では日本語は使いません。と言いながら、私はこの辺りの事を全く考えていなかったので、25歳で国境なき医師団に入ろうと思い立った時には、普通に入れるものだと思っていました。

 

ところが英語が話せない事で一ミリも道が開けず、深く深く撃沈した一人です(笑)

 

という訳で、国際協力をするには英語なのか、アラビア語なのか、フランス語なのか、各現地語なのか、とにかく語学ができない事には何も始まりません。もし帰国子女やバイリンガルでなければ、まずは語学の勉強に取り掛かりましょう。

 

私が撃沈したのは1999年(国境なき医師団がノーベル平和賞を受賞した年)です。あの頃に比べたら現代は語学学習の宝庫です。当時私はかなりのお金をかけて勉強をしましたが、今だったらネットを駆使して無料でできる道を探れそうな気がします。

 

私は結局は留学という道を取り、それはそれで素晴らしい体験をしましたが、同じ国境なき医師団の同僚たちの中でも、「俺は語学の学習には1円もかけないという自分ルールを作って、街にいる外国人に話しかけまくった」という人や、外国人バーに通い続けて英語を習得した、という人もいます。

 

もちろん私のように留学した人もいますし、月に数千円のオンラインレッスンで頑張ったという人もいます。

 

ここでのポイントとして、「日常会話」程度では国際協力はできないと考えましょう。現地で援助を届ける相手は人間ですので、しっかりとしたコミュニケーションの取れない相手からの援助を快く受け入れるはずがありません。

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各国から集まるスタッフと一緒に医療活動

 

うまく伝える能力がないと自分自身もフラストレーションが溜まりますし、仕事ができる言語レベルに達するまでは行かない方が良いでしょう。簡単な指標としては、自分の生活を、仕事・プライベート合わせて24時間、英語に置き換えて想像する事です。

 

ちなみに英語に関しては、現地の人々にとってもセカンドランゲージである事が多いにも関わらず、その流暢さにはびっくりします。その相手と対等に話せるようになるまでは頑張りましょう。

 

コミュニケーション能力

こちらは語学力とは別のトピックになります。国際協力を始めるにあたっては語学はできて当たり前、という前提ですので、この章での主題は実はこちらです。

 

国際協力は一人で行う訳ではありません。援助そのものだけではなく、援助をするための基盤つくりも必要となってきます。その過程で必ず色んな人と出会い、対話をしたり交渉をする場面があります。

 

また、チームで活動する事が多いと思いますが、その中で「意見を言う」「相手の話を聞く」「説得をする」「プレゼンをする」「嫌な事やできない事をはっきり伝える」などのスキルは必須です。言語力のみならず、このようなコミュニケーション能力が求められるのが国際協力の現場です。

 

私は現在、国境なき医師団で採用の担当をしていますが、面接のときに重視するのは言語力とともに、このコミュニケーション能力です。特に多国籍チーム内での活動になると、いくら言語が堪能でも積極的なコミュニケーションがとれなければ活動はできません。

 

多文化・異文化の中でのコミュニケーションを取るという事は、私も含めた日本人には大きな挑戦でもありますが、素晴らしい経験を得られる国際協力の醍醐味でもありますので、ぜひ意識を向けたいポイントです。

 

 

5. 簡単ではないことを知ること

人道支援に対して情熱や憧れがある若者はたくさんいるかと思います。それはとても良い事です。このような情熱や憧れがなければ、まず一歩は踏み出せません。

 

ただし、それだけだと現実に直面した時に潰れかねません。「自分は世界を変えるのだ」「戦争を止めて、貧困をなくすのだ」というような規模の大きな情熱や目標で始めてしまうと、途端に現実の壁が立ちはだかります。現地の人々が置かれている状況には複雑で長い歴史や、個人では太刀打ちできないような背景などがあります。

 

その中で、援助者として何ができるか、という事ですが、世界を変える事などできないどころか、援助自体が中々スムーズに進まない事もあります。それは現地の受け入れの問題かもしれませんし、物資がうまく揃わないからかも知れませんし、セキュリティの問題かも知れません。

 

壁はたくさん現れるかと思いますが、1つの壁にぶち当たったからといって挫折せず、その現実を受け入れて柔軟に対応していかないと進まない事ばかりです。

 

また、国際協力=可哀想な人達にボランティアで手を差し延べるという程度な考えや、心に抱えているものが憧れのみであれば、もう少し真剣に現実を知っておかないと援助の難しさにつまずいてしまうでしょう。

 

知っておくべき事は、「相手は血が通った、私たちと同じ人間だ」という事です。可哀想な人達というカテゴリーで相手を括ってしまうと、つい、援助をしている自分たちの方が上の立場だと勘違いをしてしまい、途端にこじれます。

 

しかも、相手は文化や習慣の違う人々です。「感謝されると思ってやったのに」という気持ちや、「よかれと思ってやっているのに」という気持ちは、この世界では傲慢に過ぎません。

 

国際協力に足を踏み入れるのは簡単です。大事なのはどう継続するかという事。「思っていたのと違った」「感謝されなかった」「物事が日本のように進まない」「現地の人は時間にルーズ、だからやっぱりやめる」という結果になるのであれば、現地の人たちのためにも、それはもう初めからこの世界に足を踏み入れない方が良いでしょう。

 

いま自分が情熱や憧れだけしか抱えていないと思い当たる人は、経験者の話を聞いたりして、本当に自分は国際協力の道に進みたいと思っているのか、もう一度よく考えてみましょう。

 

 

さいごに

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戦闘で逃れてきた子どもたちと。南スーダンにて

 

派遣スタッフとして現地で活動するだけが国際協力ではありません。日本のバックオフィスで事務仕事をする事も確実に現地のサポートには繋がっていますし、資金を援助する、もしくは応援する団体の活動にSNSで触れるだけでも、立派な国際協力だと私は考えています。

 

国際協力にどんな形で係っていきたいかは、あなた次第です。実はあなたの活躍するべき舞台が国際協力の道ではないという可能性だってあります。それはそれで良いのです。人それぞれ適材適所がありますので、自分が楽しく満足して自分を発揮できる場所で活躍する事が大事です。

 

とはいえ、人道支援にいったん足を踏み入れると確実にやり甲斐は感じられますし、日本では味わえないような格別で素晴らしい世界を体験できることかと思います。
私はこの素晴らしさを多くの人に体験してもらいたいと思っています。それには何よりも事前の準備が必要です。焦る事はありません。

 

ここまで読み、それでもあなたがこの世界に真剣に進みたいという気持ちがあるのであれば、このブログをぜひ参考にして下さればと思います。

 

白川優子プロフィール

国境なき医師団(MSF)看護師。看護学校を卒業後、埼玉県内の病院で外科、手術室、産婦人科を中心に約7年間看護師として勤務。2003年にオーストラリアに渡り、2006年にオーストラリアン・カソリック大学看護学部を卒業。

その後約4年間、メルボルンの医療機関で外科や手術室を中心に看護師として勤務。2010年、MSFに参加。紛争地を中心に9カ国で17回派遣に応じてきた。2018年7月、初の著書『紛争地の看護師』(小学館刊)を上梓。

2018年8月より集英社イミダスにて、『「国境なき医師団」看護師が出会った人々~Message sans Frontieres ことばは国境を越えて』を連載中。同年10月よりMSF日本のフィールド人事部にて海外派遣スタッフの採用業務に従事。