原貫太の国際協力ブログ

フリーランス国際協力師原貫太のブログです。国際協力やNPO・NGO、アフリカ、社会問題などのテーマを中心に解説しています。

【感想】職業は武装解除 DDRや平和構築に興味ある人は必ず読もう

『職業は武装解除』を読みました。一言で言えば、国際協力を志した原点に連れ戻してくれた一冊

 

瀬谷ルミ子さん著作、『職業は武装解除』の書評をまとめます。平和構築に関心ある人は、ぜひ読んでください。

 

 

職業は武装解除の著者、瀬谷ルミ子さんって誰?

はじめに、『職業は武装解除』を書いた瀬谷ルミ子さんを簡単に紹介。僕も一度だけお会いしたことがあります。

 

瀬谷ルミ子
1977年群馬県生まれ。認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)理事長、JCCP M株式会社取締役。中央大学総合政策学部卒業。英ブラッドフォード大学紛争解決学修士課程修了。ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネ、コートジボワールなどで、国連PKO、外務省、NGOの職員として勤務。2007年よりJCCP事務局長として、ソマリア、南スーダン、アジア地域などの事業を統括。13年より現職。専門は紛争後の復興、平和構築、治安改善、兵士の武装解除・動員解除・社会再統合(DDR)など。11年Newsweek日本版「世界が尊敬する日本人25人」、15年イギリス政府による「International Leaders Programme」に選出。(Amazon商品ページ「著者略歴」より)

 

平和構築の分野で働く日本人なら、知らない人はまずいないでしょう。20代から世界の紛争地を渡り歩いてきた彼女の生き様は、23歳で国際NGOを起業した僕にとって、一つのロールモデルです。

 

 

なぜ職業は武装解除を読んだのか

僕の周りにも、『職業は武装解除』を読んで国際協力を志した大学生がチラホラいます。この業界では、それだけ有名な一冊なんですね。

 

では、僕はなぜこのタイミングで『職業は武装解除』を読もうと思ったのか。それは、国際協力に対する熱い心を取り戻したかったからです。

 

今年5月に起業してからというものの、書類の作成や資金調達に追われてしまう毎日。「国際協力に対する熱い心が、自分の中で冷めてしまってはいないか…?」と不安に襲われる時がありました。

 

読んでいる本もビジネス書ばかり。冷たい頭で物事を考える機会が増えていたからこそ、このタイミングで国際協力に特化した本を一冊読みたいと考えました。

 

瀬谷ルミ子さん著作『職業は武装解除』は、ずっと気になってはいたものの、なかなか読む機会がありませんでした。今年11月、瀬谷さんが登壇した日本紛争予防センターの活動報告会に参加したこともあり、「Kindle版はたった580円だし、この際に読んでみよう!」ということで購入。マジで正解でした。

 

 

そもそも、武装解除って?

職業は武装解除
11月に参加した日本紛争予防センターの活動報告会の様子 

 

『職業は武装解除』は、こんな書き出しから始まっています。

 

私は三十四歳、職業は武装解除です──。

こう自己紹介すると、日本だけでなく、世界のたいていの人たちは、私が過激派系の人ではないかと一瞬疑いの目を向ける。核兵器関連のお仕事ですかと尋ねる人もいる。確かに、「武装解除」なんて、日常会話であまり使わない単語だ。『職業は武装解除』より)

 

日本では「武装解除」なんて言葉、日常で使う機会はほとんどありません。が、僕はウガンダ北部で元子ども兵社会復帰支援に携わっていたこともあり、「DDR」という言葉の中で記憶していました。

 

DDRとは、紛争後の国家における復興と平和構築の促進を目的に、その国家や国連、またNGOなどが主体となり行われる平和活動の一種で、

 

Disarmament(武装解除)

Demobilization(動員解除)

Reintegration(社会復帰)

 

の頭文字をあわせた言葉です。兵士から武器を取り上げ(武装解除)、除隊させた上で(動員解除)、兵士という「職業」を失った彼らの手に職をつける職業訓練や教育の機会を与える(社会復帰)、一連の取り組みを指します。

 

そんなDDRに対する大枠のイメージを持ち、『職業は武装解除』を読み進めるといいかもしれません。

 

 

職業は武装解除から学んだ2つのこと

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世界の紛争地を渡り歩き、紛争解決や平和構築に携わってきた瀬谷ルミ子さんの半生をまとめた『職業は武装解除』。一読ですべての内容をインプットするには、あまりにも濃すぎる内容でした。

 

『職業は武装解除』から僕が学んだ2つのことを取り上げます。

 

 

①命の重みを再認識させられる

紛争地にいると、一人ひとりの命の重さと人生の価値が、「人類みな平等」ではない現実に日々、直面する。ある紛争の被害者の数は、八十万人から百万人と推定されている。誤差の二十万人の人生一つひとつに、注意を向ける人は誰もいない。でも、その一人ひとりに、確実に人生は存在する。『職業は武装解除』より)

 

ここでいう「ある紛争」は、ルワンダ虐殺のことを指しています。このブログでもルワンダ虐殺は度々取り上げてきましたが、「ルワンダ虐殺ではたった100日間で約80万人が殺害された…」と文章で書くその"作業"に、最近は慣れてしまっているのが正直なところ。

 

よく考えれば、「約」という言葉も恐ろしい。犠牲者の数は、もしかしたら79万5000人かもしれないし、80万5000人かもしれない。でも、その差の5000人にも、ひとり一人の人生が間違いなく存在していたはずです。

 

その一人に自分が含まれていたら、どれほど無念だろうか。考えさせられます。

 

お茶の間でお菓子を食べながら、紛争地の現場を眺める私という構図。死にゆく人々は、レンズの向こう側で、数十億の人々が眺めていることすら知らずに、息絶えていく。『職業は武装解除』より)

 

ソーシャルメディアの発達によって、僕らはスマートフォン一つ使えば、世界中で起きている紛争や貧困の「リアル」を知ることができるようになりました。

 

僕はTwitterで海外メディアを多数フォローしています。そうすると、タイムラインにはシリアや南スーダンで苦しんでいる避難民の写真が流れてきます。トルコの海岸に打ち上げられたシリア難民の男の子の写真を記憶している人も多いのではないでしょうか。

 

でも、僕たちはその写真を、スマートフォン上で親指を少しスライドすれば、スルーすることができてしまいます。そして何事もなかったかのように、彼らから目を背け、家族との夕飯を楽しむことができるでしょう。

 

情報技術がますます進歩している今日、"世界の不条理"を知る機会は、僕たちの周りにいくらでも存在しています。その不条理を知った時に、実際にアクションに繋がる人と繋がらない人との差は、一体どこにあるのでしょうか。

 

そんな、ある意味で哲学的な考え方も、『職業は武装解除』から学ぶことができました。

 

 

②プロフェッショナルとして国際協力に携わるとは

私は、紛争地で仕事に取り組む上で、「やらない言い訳をしない」ことをポリシーにしている。

 「できない」ことと「やらない」ことは決定的に違う。「できない」ことは、自分の能力や環境、その他の外部条件が原因のこともある。「できない」ことは、場合によってはあきらめるしかない。ただ、今はできなくても、努力して将来できるようにすることが可能な場合もある。

一方、「やらない」ことの原因は自分の気の持ちようを変えるだけで解決できる。『職業は武装解除』より)

 

国際協力、とりわけアフリカの現場では、予測不可能なことが起きるのが日常茶飯事。日本とは全く違った環境の中で、思い通りに仕事がうまく進まないこともたくさんあります。

 

それでも瀬谷さんが言っている通り、「できない」と「やらない」は違います。正直に、思い通りに進まないことが何度も重なれば、人間誰しも、楽な方を選びたいとか、目を背けたいとかの気持ちが、一瞬は芽生えてしまう。僕も何度か似たような気持ちを、アフリカ滞在中に感じました。

 

そんな時でも、簡単にあきらめてしまうのではなく、「どうすれば上手くいくか」を考え続ける姿勢が大切。来年から僕はアフリカに駐在する予定ですが、この基本さえ忠実に守っていれば、どんな失敗であっても、成功を収めるための判断材料にすることができるはずです。

 

私たちは、基本的に住民たちをあまり被害者扱いしない。一時の過剰な善意が、ときに「援助慣れ」を生み、人々の立ち上がる力まで奪ってしまう現場を、過去にいくつも見てきたからだ。私たちができるのは、彼らが自力で歩き出せるようサポートすることだ。無理をして一度に大量の支援をしてそれっきりになるよりも、自分たちができる範囲で、相手が自立できるまでの節目節目に必要な協力をすることが必要だと思う。『職業は武装解除』より)

 

難民をはじめとした紛争犠牲者は、「被害者」として捉えられてしまうことが多い。たしかに、基本的な衣食住も満たされていない人たちに対して、物資を与える支援をすることも大切です。

 

でも、あるべき支援は、本来彼らが持っているはずの力を十分に発揮できるよう、周りの環境を整えてあげること。どんな人にも、自分で未来を決めるだけの意志、そのための能力は備わっているからです。

 

その意味で、与えるだけの支援をするのではなく、彼らが自分たちの力で生活を始められるよう、"協力"することが必要。そこには、逆に僕たちが彼らの力強さから学ぶこともたくさんあるでしょう。

 

プロとして国際協力に携わるための姿勢や心構えも、『職業は武装解除』から学ぶことができました。

 

 

さいごに

瀬谷ルミ子さんという"スーパーウーマン"の人生や哲学、そして日本では想像もつかない場所での不条理を、『職業は武装解除』を読めばたった580円で学ぶことができる。改めて、本って恐ろしいなと感じます笑

 

国際協力を志した原点に連れ戻してくれる一冊でした。紛争解決や平和構築に関心ある人、『職業は武装解除』は必読です。